『ウェブを進化させる人たち』9

湯川 …かつて言われていたのは、シリコンバレーベンチャーキャピタルは早い時点でお金を投入してくる。逆に、日本のベンチャーキャピタルは銀行資本系の会社が多いから安全志向で、ある程度事業の成否がはっきり見えてこないと参入してこない。ベンチャービジネスにとって一番お金が欲しい時に日本では誰も助けてくれない。

(p.75)

私がUSにいた90年代後半から00年代前半、ベンチャーキャピタルがIT企業にお話を持ってくる席に何度か同席したことがあるが、彼らの“回転力”にはほんとびっくりした。“市場”のトレンドだけではなく、基本的な知識もあるし、他社の状況もちゃんと把握していた。ハイリスク、というけれど、あまりギャンブルしているようには感じられなかった。ちゃんと分析がされていて。彼らの話を聞いていると、「へえ、ウチらってこんなふうに評価してもらえるんだー」と、なんだかちょっと勇気づけられたりしたものです(笑)。

続く小林氏の解説によると、この状況は多少変わったらしい。基本、アメリカでは、経営者にもなれるような人がプロフェッショナルとしてベンチャーキャピタルを運営しているとのこと。そしてハイリスク・ハイリターンを狙って投資している。それに対して日本は証券会社や銀行から発したようなスタイルで、新卒入社後そこで経験を積んでキャピタリスとになっていくパターンで、証券系の会社や銀行からの出向も多く、プロパーで入社してくる人はほとんどいないそうだ。

2000年前後のネットバブルのあたりから、USに見られるような「ハンズオン型」「アーリーステージ型」の投資が増えてきたらしい。「お金が回り始めた」という感じ、だとか。

出口はIPOがメイン、とのこと。M&A自体はそんなに増えていかない、のか。まあ、前よりはよくなっているとはいえ、日本はまだまだ不景気だもんね。

湯川 シリコンバレーと東京を見比べて思うのは、面白そうな事業やベンチャーが登場すると、シリコンバレーの場合はすぐに経営陣が集まりますね。経営のプロ、技術のプロ、財務のプロなどで3〜4人のチームが簡単にできてしまいますが、日本の場合は学生ベンチャーのノリのままで何とか進めているという会社をいくつか見ます。そのような違いは実際にありますか。

(p.77)

激同です! そして、小林氏に話をふるまでもないよ、湯川さん、これは実際にあります。

ウチの会社なんてこの「いくつか見られる会社」の典型だといっていいと思う。起業してからもう10年余も経っているのに、今だに経営と財務のプロがいないのだ。もう10年余も「学生ベンチャーのノリのまま」でやっているのだ。それがイヤで会社を去ったスタッフもいる(それも中途入社のワタシが知っているだけでも数名)。それでもまだプロどころかMBA101の知識すら持っていないような人に「経営企画部」を任せている。まあ、裏を返せば、この会社には経営と財務に関して戦略は何もない、ということなのだけれどね。

小林氏は、それはベンチャーのインフラの違いだと述べているが、日本も今や十分プロジェクト型だと思う。大手通信系企業も、昨今、内部で人を育てる試みはしていないような気がする(だって、どこも優秀な人材は外に流れ出まくりなのに、それをなんとかしようとする手だてをうっている様子はぜーんぜん見えないもん、うーんこれはまた別の問題も潜んでいると思います…)。もう「日本らしい良い点」なんて残っていないのかも。

プロジェクト型が導入されてもしかし、一向に経営を戦略的に考えることを取り入れていないように感じる。これは単に、日本人あるいは日本企業が、戦略的に経営を行うという意識が低すぎるからじゃないかと思う。USにいたときに体験したことだけど、ちょっとした学生サークルとかNPOとかでもちゃんと経営・財務の担当者を決めていた。会計じゃないよ。意識が違うんだと思う。

ベンチャーの育つ環境もなければ、ベンチャーの方でも育って行こうという気持ちがないのではないか、と思う。

今や日本には、IT産業においては、ピュアブレッドなビジョナリーカンパニーなんてないのではないかな。ウチの会社、一応「ビジョナリー」って役職の人がいるのですが、「ビジョナリー」って言葉の意味解って使っているのかねっていうくらいビジョンも何もないです。

正直言って、ここの章、読んでてかなりヘコみました…(^_^;)

GoogleはUSはともかく4bitesの文字コードを扱う国支社は、質の悪い傭兵を雇いすぎて開発者のレベルがだいぶ下がってきてしまっていると聞きましたが、さて。